12ヶ月目

要約
学校が始まって3週間目の2月のある日、一人の同僚に言われた。「昨年は笑顔だったが今年は笑顔が無い。どうしたの?ストレス?疲れているのか?」言われて、はっとした。学校のスタートに戸惑い余裕のない自分もあったのかもしれないが、赴任してもうすぐ1年、自分自身、慢心や自信が過信になり知らず知らずの間に厳しい顔になっていたのだと思う。そのままずっと活動を行っていたらと今思うと、ぞっとする。と同時に、そんなアドバイスをくれる同僚に感謝したい。
任期の中間地点である今振り返ってみると、私が取り組み結果となったものはお世辞にも多くない。今後の任期の中で何ができるのか、後任の方へ引き継げるのか未知数であり、正直不安でもある。ただこの1年、何も活動してこなかったのかというとそういう訳でもなく、日々の授業を現地の先生方と同じ目線で一緒に行いまたワークショップを開く等の中で、今後の活動の指針は見えてきた。以前は数学教育改善の活動に対して取り組むべき課題が漠然としたイメージでしかなかったものが、今では具体的にはっきりとし取り組み始めている。今回この記事を作成することで、あと1年の任期の更なる活動の浸透を図るためにも、今一度自分が取り組んだことを確認し役立てたい。
最後に、今特に感じていること、それは(本当は当たり前のことかもしれないが)とにかくここまで無事に活動できた、ということである。職場の同僚や生徒達に感謝している。フィジーの数学教育の更なる発展のためまた自分自身悔いを残さないためにも、これからも感謝の気持ちを忘れず笑顔を大切に活動に取り組んでいきたい。

1、活動の進捗状況         
前回のフィジー滞在6ヶ月目において、私の活動内容の柱が「配属先の数学教育の向上」「ワークショップのサポート」「他校との連携」であることを述べた。今の活動において、その時点(半年前)からの活動計画の変更点は一点あり、「配属先の数学教育の向上」の中で、個人的呼びかけによる「Department内の会議の開催の実施」が困難である。これは、本校の数学科の人数が私を含め7名と多く、また先生方が受け持っている授業数も多く、空き時間等での実施・調整が困難、また放課後の開催も思案したが、これも全員残ってもらうことが難しく、したがって個人的な呼びかけでの開催は難しい。既存の月一回予定のHODによるDepartment会議内で必要に応じた活動ができればと考えている。またそれに伴い、会議内容の精選と実施内容の検討、も既存のDepartment会議内で行う、と考える。したがって、活動計画の中の授業研究プロジェクト実施サポートについては、校内での研究授業等の実施とそのサポート、を中心に取り組んでいきたい。他には、活動計画の変更点は無い。以下、活動の進捗状況、活動概要を記していく。
まず「配属先の数学教育の向上」については、私が昨年度(4月~12月)教えていたForm4のクラスの生徒の学力は数学への興味も含めて客観的に見て上がったと思う。しかし、学年全体学校全体を見たときにはそこまでできていない。正直これまでは、自分が教えているクラスをどうするかで精一杯な面もあった。したがって、学校全体に対して(主は教師に対して)何をどう取り組んでいくのか、このことが、後に述べる「他校との連携」とも関連してくるのだが、日々の授業と合わせて私のこれからの最大の活動になってくると考えている。具体的には研究授業の実施、を中心に据えて取り組んでいきたいと考えている。次に「ワークショップのサポート」だが今年度は、昨年度までCDUの方々と取り組んでいた鳴門教育大学での研修内容にとらわれない、私たちがワークショップを開くこととなった。回数は年3回の予定。内容は、昨年度取り組んだことを中心にしながら、新しいことも取り入れていきたいと考えている。具体的には、各校での取り組みの発表、学期中に行った会心の授業の解説発表、模擬授業、研修発表、数学についての知識をさらに深める、等である。明日からでも使えるような実践的で実際の現場により即したものを考えていきたい。3つ目の「他校との連携」は、今年度に入り進み始めている。内容としては、ターム3(9月)にパイロット校を招いて、本校の教師が公開授業を行い、その授業の反省会及び意見交換会を行う、といったものを計画している。これらについて、本校のDepartment内の会議で提案し了承され校長の許可も得、現在は校内での研究授業を数学科教員で順番に月に1、2度行い、自分たちのスキルアップを図ると同時に公開授業に向けた準備を行っている。また4月には、本校のこの研究授業にパイロット校1校とそのカウンターパートが見学に来られる予定である。先生方にとっては、他の先生の授業を見るというのは新鮮らしく、好評である。例えば私がこの研究授業を2月に行ったときには、生徒に与えた課題が先生方にとっても興味を引くものだったらしく、後の反省会で多くの先生がその点について意見を交わしていた。一つの数学の問題にしても、設定を変えたり生徒の生活実態に即したものにするなどの工夫で、無味乾燥なものになるか興味を引くものになるか変わるものである。このようにして、この研究授業や公開授業を一つのきっかけにし、教材や自らの指導法をもう一度じっくり見つめ直し、お互いが意見交換をする中で教師側に変化が起こり、学校全体の学力向上につながれば、と期待している。もっと大きく言えば公開授業を通して、他のパイロット校でも変革のきっかけになればとも思う。これは、少ない回数や短い期間の中で大きく成果の出るものではないかもしれない。また先生方にとっても今までやってこられた自らの指導法なりを変えていくというのは、想像以上に困難であろう。しかし私自身、日本でこの研究授業等を数多く行ってきた。今振り返ると、それが自分の財産であるし糧となっている。そういった自分自身の経験を通しても、Fijiの先生方にも必ず変化が起こるものと信じている。
 以上、この3つの柱を中心に取り組んでいきたい。

2、着任後1年時点の活動結果と課題及び課題に対する解決案
 結論から言うと、中間時点の今自分の活動を振り返ってみて、特にこれといった結果は得られていないのではないか、というのが本音である。進行途中の真只中といった感じか。それゆえ効果の表れた、結果といえる結果は無いに等しい。私の活動の中で、まず中心にして取り組んだのは、日々の授業である。これについては、真面目に取り組み頑張ってきた、と胸を張って言える(と思う)。しかし、日本でも教職経験のある以上、それは当たり前なことでもある。では他のことはどうかというと、そこまで胸を張ることができない。ただそのような中でも、活動の方向性が見えてきた、とはいえる。
昨年度は、数学科ワークショップをターム休み等利用し3回計8日間行った。そのうち2回は事務所主体で行ったプログラム(教材作り等)もあり、現地の先生方に好評であった。しかし、ではどれほどの先生方が、そこで学んだこと知ったことを普段学校活動の中で活かしておられるのか、というと私は疑問符が付くと思う。本校でも授業中、話題に上ることはあっても、活かす、といったところまではいかない。また私自身もそれを校内で広めていく、といった活動はできていない。日本の大学での数学理論や教材作りはもちろん大切なことで、例えば生徒の興味を引き数学を好きになり、そこから教育向上につなげていくことができることは言うまでもない。しかし、あのシラバスの縛りの中で、どれほどの時間や回数が費やせるであろうか。日本のように授業時間にゆとりがあるのであれば勿論可能であろうが、今の現場では正直実践的ではない、というのが私の感想である。私も無理である。
そこで、実際の現場で一番何が役立ち、彼らがより主体的となって取り組め、さらに彼らの力となりまた結果が得やすいのか、と考えたとき、「研究授業の実施」ではないか、と考えた。自尊心が強く発表が好きでまた得意のインディアンである彼ら(私以外の本校数学科の先生方全員がインディアン)にとっては、授業計画を立て、教材研究を重ね、授業を見てもらい、私だけではなく現地の先生どうしでお互いの授業について意見を交わすことで、もっともっと数学教育・数学指導のベースとなる部分が改善でき、日々の授業力向上に寄与できないかと考えた。昨年度ターム3からこの研究授業を本校数学科で行っている。本格的な始動は今年度からなのでまだまだ未知数ではある。何かしらの結果を得るにも時間がかかるであろう。しかし、昨年度この研究授業を行った先生(元C/P)は、「全員が行うべきだ」と言ってくれ、私を後押ししてくれている。
こう書き記していくと、前述では結果が得られていない、と述べたが、この1年間での私の活動結果と言えるものは、現場で何が必要で何を行うことが良いのかを探していくこと、具体的には、研究授業を提案し実施していること、にあたるのでは、と今思う。文章にして書くとわずか数行であるが、実際には本当に苦労したし今も苦労している。思うようにいかないことがほとんどである。しかし、このことで、先生方へ何かしらのフォローアップができ生徒たちへ還元できれば、こんなにうれしく幸せなことはない。したがって、日々の授業に加え、この研究授業へのフォローアップに、今後力を注いでいきたいと考えている。

3、現地支援制度活用計画
数学ボランティア6人で、Form3・4の数学の問題集を作成している。そのための、紙やファイル等にかかる費用に申請、活用させていただいている。また数学ワークショップ(年3回予定)に関る費用も申請、活用したいと考えている。更に個人的には、ターム3(9月)にパイロット校を招いて公開授業を実施予定であり、その際にも必要なものについて活用させていただきたいと考えている。

4、社会的格差に関する所見
 民族間格差:フィジアンとインディアンでは様々な場面で違いが見られる。例えば一番顕著なものは言葉であろう。基本的には学校内英語であるが、職員室内はフィジアンの先生はフィジー語、インディアンの先生はヒンディー語を話す。すなわち多くの場面を各々で過ごしているわけである。この学校内での主導権はインディアンの先生が握っているが、一歩街へ出るとインディアンよりもフィジアンの方が優遇されているように見られることもある。色々な要因はあろうが街で見かけるホームレスの人はインディアンが多いように思う。
 ジェンダー観:活動先でジェンダーに関して感じることは特にない。毎週のモーニングティーの準備も当番で男女関係無く行う。生徒達の様子も、例えば力仕事は男子、床掃除は女子、等の男女としての区別が見られる場面はあるが、それがジェンダー差別だとは感じない。ただ例えば、学校の先生の家等へ招待を受け飲食をする際、女性の方はひたすら準備、料理等を行う。私達が食べ終わると、ようやく彼女らや子供達が食べ始めることが多い。このことがジェンダー観、とりわけ男性中心社会の形成からなのか、またそこから起こる問題なのか、は分からない。

5、【旅行】昨年12月、国内旅行をした。場所はランバサ、ラウトカ。
ランバサは着いた次の日、同期の活動先である病院を見学させていただく機会が持てた。同期の活動内容は自分にとって畑違いで難しかったが、私と同じ人と人との繋がりで活動を行っていく姿を見て、また、何より同期が頑張っている姿を見ることができ、自分にも刺激となった。ラウトカの印象は、公園の芝がきれいで、聞くと草刈などに市からの税金が多くの額、投入されているとのこと。観光都市ナンディなら分かるが、ラウトカで美化清掃に力(金)を注ぐのは、この市を好きでなかったらできないのでは、と思った。このようなことは人によって賛否両論あるのかもしれないが、私は大切だと思う。「窓割れ理論」ではないが、環境が人の心を育てていく面はあると思うし、心を豊かにするか荒んだものになるか関係してくると思う。税金での優先順位ではそれほど上位には来ないかもしれないが、未来への先行投資の意味でも大切にしていってもらいたい。この旅行で息抜きと刺激を得ることができ、良かった。また、残り1年の中で私自身も誰かに何かしら刺激を与えることができる人間になりたい、とも感じた。

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