26ヶ月目

◆要約
決められた期限の中で、自分のやるべきことや責務をやり切ることは大切なことで、私たちのボランティア活動で言うならば、2年間という任期の中で計画を立て実行し、そこから見えてきたことにリトライし、結果(結果の出なかった結果も結果の一つとして)を残していくことになると考える。しかし私の場合は、後述の数学ワークショップ開催のために任期延長を申請し承認していただき、2年2ヶ月の活動をさせていただくことができた。そのようなチャンスを与えていただいたことにまず感謝している。
 感謝という面からすると、言うまでもなくこの2年2ヶ月は配属先の先生方、生徒たちに支えられたものだった。今振り返ってみて改めて、配属先がSuva Sangam Collegeで良かった、と心から思う。校長は毎年代わり、カウンターパートも任期半ばで代わったが、どの方々も、また数学科の先生方をはじめ他の先生方も、私をサポートしてくださった。「ボランティア」ではなく「教師」として接してくれたことも有り難かったし嬉しかった。また、先生方と同じだけ校務分掌を持ち、2年間学級の副担任を務め、今年度は臨時で学級担任をした。数学教育以外の部分でもかなり大変であったが、一人の教員として学校にいれたことは、スムーズに活動を行っていくことができた大きな要因だったと今感じている。配属先では、プロジェクトではなくマンパワーとして期待されての2年2ヶ月の活動であった。
フィジーへ来る前のレポートで「自分一人で頑張ることも大事だろうが、できれば現地の方と、ともに地を耕し汗を流し、ともに種をまき水をやり、少しずつでも芽が出るような活動を行いたい」と記した。そのことを心に留め、ともに取り組むことで何か効果のあるような活動をしたい、と思い過ごしてきた。加えて理想としては、赴任している間だけではなく帰国した後も残る何かに取り組みたい、とも考えていた。2年2ヶ月で取り組んできた活動内容は大きく挙げて「配属先の数学教育の向上」「ワークショップのサポート」「他校との連携」の3つであった。特に力を注いだのは、配属先(パイロット校)数学教育向上における「授業研究(公開授業)」である。生徒中心の授業を目標とし数学科の先生方と一緒に取り組んできたが、結果的にどれ程の効果が生まれ残すことができたのか、今はまだ分からない。芽が出ていない状態なのかもしれないが、少なくとも現地の先生方と、ともに今後花を咲かすための活動をしてきたと自負している。また、任期を通して「数学の授業をする」ということも一生懸命に力を注いできた。授業を行うことで、生徒たちにも「ボランティア」ではなく彼らの「先生」になれたように思う。授業実践は、目の前にいる生徒たちの力になりたい、という想いはもちろんだが、先生方が私の授業研究等の提案を受け入れてくれるためにはまず自らの姿勢が大切であろう、という想いがあった。実際、授業研究の提案も全員が賛成してくれ本校の活動として取り組むことができた。今でも、この提案をして了承された日のことをよく覚えている。この日が私の活動の本当のスタートした日だったと思う。
ただすべてが順調に行えたわけではなく、やはり課題や反省すべき点もある。課題の一つは、授業研究の実施、拡大についてである。公開授業を行った学校はパイロット校6校中4校だが、継続的に授業研究を行っているのは本校を含め2校である。プロジェクト目標が変更されたことに伴い、今後どのように実施し促進させ拡大させていくかが大きな課題であろう。また、カリキュラム(シラバス含む)と教科書については未だに大きな問題を抱えている。幸いにも3月中旬に教育省に提案する機会があり、彼らが変更することを約束してくれたので、今後どのように実施し有効活用されていくのか、楽しみにしていたい。それと重なることであるが、教育省との連携も大きな課題を残している。また個人の反省としては、自分の学校の活動で精一杯になり、パイロット校での活動が公開授業とワークショップにしぼられてしまったことだ。ただ、公開授業はフィジーで初めての試みとなったし、ワークショップについても後述のように現地の先生が中心となって実施できたので、今後に繋がる一定評価できるものであるかと考える。また、フィジーの授業スタイルはいわゆる暗記型の授業で、問題を解くことに主眼が置かれているが、それを打破できなかったことも反省の一つである。授業研究を通して、何とかしたいと考えていたが、難しかった。ただこれも、少しずつではあるが生徒に考えさせる授業に移行しつつあるかと考える。
課題と反省を残してはしまったが、フィジーの美しい自然や優しい心を持つ人々がいる恵まれた環境の中で思いっきり活動をすることができ、満足感で一杯である。この国の学校の素晴らしいところの一つに「いじめが無い」ことが挙げられる。多少のケンカはあるがいわゆる「いじめ」が無い。日本は、少なくともフィジーをこの点では見習わなくてはいけない。宗教観なのか文化なのか分からないが、とにかくこれは驚き衝撃であった。また、フィジーの方々と出会えたこと、とりわけ現在のカウンターパートに出会えたことは、活動を行っていく上でも個人的にも幸運でもあったし、大きな財産となった。この経験を何かの形で還元し少しでも貢献することが、この国の人々への感謝の気持ちの印になるであろうし、またそうしていきたい。加えて、日本は3月の大地震により、少しずつ復興しつつあるが、まだまだ途上である。亡くなられた方々は本当に気の毒なことであった。私自身、16年前の阪神淡路大震災時に、幸い大きな被害は無かったものの恐ろしい思いをした。この3月の地震があった日、何人もの先生が心配し電話してくれ、次の週学校へ行くと多くの生徒たちが自分の家族のように心配してくれた。日本は今危ないし心配だからフィジーに住みなさい、と何人に言われたであろうか。日本のために千羽鶴を全校生徒教師で折り、ドネーションまで集めてくれた。自分自身の存在はとてもとても小さいものであるが、人と関わり何かをともに取り組んでいくことで広がる人と人との輪/和の大切さを肌で感じたし、直接的でも間接的でも、とにかく今後人のために役立ちたい、と本当に感じている。日本から遠く離れたところからではあるが、日本のことを日本人を心配し立ち直ることを応援してくれている人々がいることを忘れてはならないし、私は伝えたい。
2年2ヶ月、長かったですが人生の中の大事な数ページとして、一生忘れることはありません。すべて貴重なものとなりました。私に関わってくださった方々に心から感謝します。

活動結果
私の活動の柱は「配属先の数学教育の向上」「ワークショップのサポート」「他校との連携」である。順に活動結果についてまとめていく。
①「配属先の数学教育の向上」:これは主に「数学の授業を行う」「授業研究を行う」という2つの取り組みを行ってきた。「数学の授業を行う」は、直接生徒の数学力を上げることに繋がると考えられる。理解することはもちろん数学を好きになる、ということを含めて、授業をしてきた。この、数学の授業を行う取り組みが私の2年2ヶ月の活動の中心であった。今年3月中旬、パイロット校の1つであるD.A.V.Girls College数学教員Mr.Seru Ramakitaが、日本への研修レポートのために、私が教えているクラスのうちの1クラスで、生徒に対しオープンエンドアプローチの問題とともに数学の授業に関するアンケートをとった。それによると、30人の生徒ほとんど全員が「interesting」「enjoyable」「very useful」と答え、その理由として「説明がある」「例を沢山使う」「分かりやすい」「楽しい」などを挙げる解答が多かった。お世辞にも上手ではない私の英語を一生懸命に聞いてくれ、ときには発音などを教えてもらいながら授業を行ってきたが、そんな生徒たちからの結果を知り、厳しいシラバスのなか慣れない英語での授業だったが、2年間頑張ってきて良かった、と嬉しかった。しかし一方で私は、自身が教えたクラスの生徒の学力向上を目指した取り組みだけではなく、学校全体に対してどのように向上を図っていくか、ということも大切なことである、と考えていた。そこで2つ目の「授業研究」を、一昨年度後半から本格的に取り入れてきた。これは、生徒側に対するアプローチではなく、教師の指導力向上のための取り組みとなる。この授業研究によって現地の先生方が変わった点は、まず授業をきちんと行うようになったことである。以前は、授業に遅れることは当たり前で、行かない、行っても座って何も教えない、ということも時々見られていた。しかし授業研究を行うようになってからは、そのようなことは見られなくなった。授業の細かいテクニックや指導観、教材研究等はもちろん大事だが、まずは自分のクラスに行き40分間授業をする、という教師としての当たり前の責務を果たすようになったことは、目に見える変化の一つであるかと思う。これは、他の先生の授業がどのようなものなのか今までお互いに知らなかったものが、授業研究を通して観るようになり刺激を受け、授業への姿勢が以前より前向きになったからではないか、と推測される。また、質問を受けるケースが増えた。教具のこと、解き方など、今までには工夫をするという視点に欠けていたものが、アイデアの共有を図るようになったことも嬉しい変化である。私が作った教具もよく使われた。その他にも、教師側からの視点ではなく生徒側からの視点での授業、例えば暗記させるのではなく「なぜ?」を多用するなど、生徒中心の考えさせる授業を少しずつではあるが行うようになってきた。ただこの授業研究の取り組みは、本来の目的からするとまだまだ中途であり、授業研究後の討議も授業についての意見交換が中心で、指導論や教材観など本当はもっと大切に取り組んでいって欲しいことが多い。しかし一方、長いスパンで取り組むことで必ず効果のあるものだとも確信している。幸いにも本校は後任のボランティアの方が赴任される予定であり、またプロジェクト目標が変更され、授業研究についてどうしていくか、ということが今後パイロット校で取り組んでいく中心になる。したがって、フィジーの先生方のためにも生徒たちのためにも、定着を目指した取り組みを行っていただけたらありがたい。
②「ワークショップのサポート」:1年目のワークショップは、日本へ研修に行かれたCDUの方々がオーガナイズするワークショップを、私たちボランティアがヘルプし現地の先生方へ広めていく形式であった。昨年度は、私たちボランティアがオーガナイズし、現地の先生方と共に創り上げていく形式を取った。内容精選、準備、レター出し、書類作り、など大変なことも多かったが、現地の先生方から高い評価を得ることができた。
今年度は、今までのワークショップから一歩進めた、現地の先生方によるワークショップの開催を提案した。いわば、教師の教師による教師のためのワークショップ、である。私が昨年度本校の先生方と一緒にワークショップや授業研究を行ってきて感じたことの一つに、彼らは発表やオーガナイズする能力は高いが、そういった場面や機会、経験といったものがほとんど無い、ということがある。また、他の人から教えられたり聴かされるものではなく、現地の先生方の課題や取り組みたいことを自分達で知恵を出し合うことで解決していくことができる、ということが今の現地の先生方にとって大切ではないか、と感じた。実際、そうしていくことで真の力が付くと考える。そのような機会を設けることで更に数学教育向上につながる取り組みが切り開かれる可能性があると考え、各パイロット校のHODの先生方と、昨年日本へ数学・理科の研修に行った4人の先生方を中心にし、会議を数回持ち、また私自身も各パイロット校へワークショップ開催のアナウンスに行き、準備をし、上記のワークショップをスクールホリデー中の5月3日(火)に開催することとなった。
 実際に、以前と同様或いはそれ以上に意義あるものとなり、参加された先生方はとても熱心に聞き入り学ぶ姿勢が見られた。実施内容は、「授業研究:その方法と公開授業のビデオ」「教材研究:九九表を使った計算の工夫とその証明、導入にゲームを用い楽しい雰囲気で行われた」「日本への研修の発表:日本の学校の様子、公文式について、博物館とミニ実験、日本紹介、県教育トレーニングセンター、提言」「グループワーク:模擬授業形式」であった。これらすべて、現地の先生方が企画し、中心となり主体的に取り組んだ。彼らは休日も集まって打ち合わせを行い準備していた。運営も良く、出席した先生方は得るものが多くその効果の面からも成功だったといえるであろう。評価アンケートでは高い評価を得、出席者全員から、今後もワークショップを行いたい、と答えて頂いた。
③「他校との連携」:前記の授業研究にも重なることであるが、公開授業を、本校・シラセントラルハイスクール・デルクシャハイスクール・DAV.Girlsカレッジ、の4校のパイロット校で開催した。行うまでには大変なこともあったが、この取り組みはかなり評価できることであると思っている。実際、参加された校長先生(シラセントラルハイスクール)からも、数学科だけの取り組みではなく全教科授業研究を行う、とおっしゃられるほどインパクトもあり且つ有効性が感じられるものとなった。個人的にはワークショップ以上にこの公開授業の取り組みが、パイロット校を巻き込んだ活動の中で最大の成果であった、と感じている。
 以前の報告書で記載した通り、あまり欲張り過ぎずできることから取り組むことと、一つのことに時間をかけてじっくりと取り組んでいきたい、という思いで2年2ヶ月活動してきた。自分自身納得のいく活動ができた。しかし、これをやれば良かったなぁ、と思うことがある。それは、「他校の授業見学」である。パイロット校全体の数学教育向上を考えたときに、自分の学校の状態を知るだけでなく他校の様子をもっと知らなければならなかった、と今になって強く思う。もちろん定期的な数学ボランティアの会議内では各学校の様子は聞くが、やはり自分自身の目で確かめることも必要であった。可能かどうかは模索しなければならないが、ボランティア(できれば核になるカウンターパート等の教員も一緒に)が公開授業のような公のものではなく、日本の授業参観のような準備無しにもっと簡単に授業を見学し合いざっくばらんに話し合える環境作りやシステム、ができればと考えていた。指導力のある教員による出張授業を相互に行う、なども取り組んでみても面白い。

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